室内オーケストラを指揮しながらマネジメントを学んでみませんか?
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本イベントは「室内オーケストラを指揮しながらマネジメントを学んでみませんか?」のタイトルのもと、株式会社DynaxT の後援、協力のもとで開催された。
担当者の伊東 乾教授は松村禎三、松平頼則、高橋悠治、レナード・バーンスタイン、ピエール・ブーレーズらに師事した作曲家、指揮者である。若くして多数の国際コンクール・キャリアを持ち、国際的な活動を展開、本学着任直前の 1990 年台にはテレビ朝日系列の地上波テレビ番組「新・題名のない音楽会」音楽監督として音楽教育・啓蒙コンテンツを広く社会発信する業務にも責任を持ち、東京藝術大学ソルフェージュ科では専門の後進指導にもあたってきた。
また任官後の2000 年には小宮山宏・工学部長(当時)の指導で設立された本学TLO「株式会社・東大総研」の設立に当たり取締役に就任、2001 年以降、科学技術コンサルタントとしてヴェンチャー支援などの実務に携わっている。こうした背景を統合して、今回は「生成AI 以降の時代、非認知能力・社会的揺動スキルを伸ばす『社会人のための指揮教室』」を実施した。幸い、実習生枠は完全に売り切れとなるなど、成功裡に終了することができた。
レッスンでは冒頭、指揮者が徹底して受け身の職掌であることが強調され、現場の声を聴きとる重要性をデピスタージ実習を通じて体験した。
デピスタージとは「まちがい探し」である。最初に言葉によるデピスタージのゲームを来場者全員で行った。4 人の奏者が「ベートーヴェン」と発語する傍ら、一人だけ「弁当番」と発音する人が混ざっているのを聞き分け、指摘する。あるいは「バッハ」と「ばっか」「ヘンデル」と「変です」「シューマン」と「シューマイ」といったゲーミフィケーション課題でリラックスして貰いつつ、企業経営などとオーケストラの指揮に通底する第一原則、現場の正確な把握 を体験的に教習した。
つぎに同様の課題をベートーヴェンの楽曲演奏で行った。各奏者に工夫してもらい、一か所程度、わざと変な音を混ぜて演奏する。来場者全員おかしな音がするので笑うことになるが、誰が、どこで、どのように変な音をだしているかを特定するのは専門の課題になる。フランス、パリ音楽院で培われた本物のデピスタージ課題を、愉しみながら来場者は経験することが出来た。
次いでマスターコースの指導が行われた。初心者向け課題としてベートーヴェン「交響曲第五番」第一楽章から、初級課題としてモーツァルト「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」から第一、第三楽章、チャイコフスキー「弦楽セレナーデ」から第二楽章「ワルツ」を題材に演奏実習と、そこで注意すべき点から、ビジネス・アドミニストレーションに有効なポイントが指導された。
なお実習中の演奏は、伊東研で博士号を取得した李珍咏・日本社会事業大学講師による音楽音響の動画可視化が行われ、演奏の場に投射された。同一の楽曲であっても、異なる実習者が別のテンポなどで演奏することで全く違ったヴィジュアルが生成され、楽譜に不慣れな参加者にも十分に楽しめる内容となった。


- 開催日:
- 2026.01.25
- 会場:
- SCRAMBLE HALL
- 学部・研究科、研究所等:
- 情報学環
QWSを利用した波及効果
本企画のひとつの原型は、2016 年以降、日本学術振興会による小中高校生のための科研費成果・社会還元プログラム「ひらめき☆ときめきサイエンス」の一つ「東京大学白熱音楽教室」として長年継続してきた子供のための音楽教室にある。算数や理科など、音のサイエンスはもちろん、他の人に指示を出して合奏を統括する責任や義務など、社会倫理、思想的な背景まで扱う、文理融合の STREAMM 教育教材の典型として蓄積を続けてきた。(ちなみにSTREAMM はドイツと日本が各国に指導的な立場で推進する教育原理で、Science(科)Technology(技術)Reflection(熟慮)Ethics(倫理)Arts(藝術)Mathematics(数理)& Musica(音楽・調和)の 7 つをバランスよく具備し、AI に隷属しない 21 世紀の自由7学科概念を指す。
「ひらめき☆ときめきサイエンス」での「東京大学白熱音楽教室」は、募集直後に100 名以上の1 次定員が満員になる人気のコンテンツであったが、今回、渋谷QWS で実施したことで、我が国では初めて、成人向けのSTREAMM 指導が実現した。生成AI が日々普及するなか、どのようにマネジメント・経営に取り組むかに苦慮する人は多く、今回は初回ながら「実習希望者・完売」という結果に結びついた面があると思われる。従来からの「小中高大一貫教育」の枠組みを超え、旧来東京大学がアクセスしにくかった、国民全体のボリューム・ゾーンに向けたライフロング・エデュケーションのあらたな取り組みとして期待できると思われた。今後も継続的に取り組みを展開してゆきたいと考える。